巻末の解説にある通り獅子文六氏による「ど根性サクセスストーリー」の傑作。
社会のあり方、株式市場を取り巻く環境など全く違う背景の中で描かれる物語ですので、ある場面は興味深く、ある場面では今はあり得ないかなあ、などと想いを巡らせながら読み進みました。
物語は、主人公のほぼ一生をエンタテインメント性溢れる筆致で描いたもので、本当に面白かったです。
個人的に印象に残ったのは、物語を透かしてみえる、かつての人間関係の“濃さ”でしょうか。
大正から昭和の戦後が舞台で、人と人を繋ぐのは直接会うか手紙…急ぎの場合は電報あるいは電話を借りて…という時代。
親しい人との間でも音信不通が続くことがある程度当たり前という時代でありながら、人は人のことを忘れていなくて、時には損得を関係なく助けたり助けられたりいう関係がごく自然に描かれていました。もちろん小説の話です…現実はどうだったかというのは別問題かもしれませんが…。
昔を懐かしんでばかりでは前に進めないと思いつつも、こういうことも大切かなあと思ったり…でした。
大番: 北上次郎選 昭和エンターテインメント叢書2 (上) (小学館文庫)
- 作者:獅子 文六
- 発売日: 2010/04/06
- メディア: 文庫
大番: 北上次郎選 昭和エンターテインメント叢書2 (下) (小学館文庫)
- 作者:獅子 文六
- 発売日: 2010/04/06
- メディア: 文庫